だから言ったのに

怖い話

だから言ったのに

投稿者:沢中 陽さん


今から5、6年前の初夏のことでした。

中学時代からの友人Tクンから相談を受けました。
付き合って3ヶ月ほどになる彼女がいて、
彼女と話をしているうち今度何処か心霊スポットに行こうという話になって、
北九州出身の彼女が高校の同級生から聞いたことのある
河内貯水池の近くにあるスポットに行ってみたいというので

今度行こうと約束したけど、Tクンは霊感も無くて怖いし、

以前から話してボクに若干霊感があることを知っていたので着いて来てくれというのです。

彼にはあわよくば彼女の恐怖心を煽って密着したいという下心があったので、

「そんな軽い気持ちでそういう場所に行くなんて賛成できない。
絶対止めるべきだ。どうしてもそういうことがしたいなら
お化け屋敷に行け」と彼を諭しました。
ところが、それから2週間ほど経てからTクンから電話が有り、
「助けてくれ」と言うのです。
話を聞くと、ボクから断られ、行くのを止められたのにもかかわらず、
彼の運転する車で二人で出かけたのだそうです。
詳しい場所については聞きませんでしたが、
帰途の車中から彼女が不快感に襲われて顔色が悪くなり、

その日は彼女の様子を心配しながらも彼女を自宅まで送り届けて帰ってきたそうです。

彼女は毛先が肩甲骨の少し下くらいまで垂れたロングヘアなのですが、

翌日から、男性のように髪の短い女性が夢に現れ、
「なんて長くて綺麗な髪なのー。ワタシにちょうだい」
と言って首を絞めてくるのだそうです。
そして目覚めると自らのロングヘアーが首の周りに
ぐるっと絡まっていたというのです。
だからその日の夜は眠る前にゴムで束ね、
ヘアバンドで頭に密着させるようにして就寝したらしいのですが、
また同じ悪夢を見て、朝方目覚めたところ、
束ねた髪のゴムから先が首にとぐろを巻くように巻きついており、

さらにその上から頭部を通り過ぎたヘアバンドが首に嵌っていたのだそうです。
ボクは彼が彼女を連れてくるから会ってみてくれと言われ、
翌日仕事が終わった後、

博多区のとあるファミレスで待ち合わせをしました。
ファミレスでTクンが連れてきた彼女は、
なるほど面食いの彼が好きになっただけあって

なかなか可愛らしい容貌でしたが、その表情からは明るさが奪われていました。
確かによく見ると、男子中学生や一昔前の高校球児のような
1センチくらいの坊主頭に刈った瞳のぱっちりした美人の顔が
ぼんやり浮かび上がってきました。

Tクンにはもちろん見えていません。
その女性の首には首吊り自殺をしたらしいスゴい色をした
アザがくっきりと刻まれ、自らの無念、怨念を吐露するように
ボクの心中に語りかけてきました。
20年以上前のことらしいですが、モデルをするほどの美貌と
黒髪が自慢だった彼女は、元々は美容師志望だったので
自ら黒髪を手入れするほど髪の毛を大切にしていたそうです。
東京の大手モデル事務所への話が持ち上がっていたので
そのころ同棲中の彼氏に相談したところ、猛反対され、
後日、泥酔状態で帰宅した彼が怒り狂って暴力を振るわれた為、

衝動的にプロ用の髪鋏で彼氏を刺し殺してしまったのだそうです。

彼を殺してしまった悲しみと輝かしい未来を失ってしまった自らを悲観して、

彼を殺してしまった鋏で一番大切にしていた黒髪を切り落とし、

一人でその場所に行き紐で首を吊って自らの命を絶ったというのです。
だから、綺麗な黒髪を持つ彼女が羨ましくて霊界へ
引きずり込もうとしているらしいのです。

 そこまでは分ったものの、ボクには除霊やお祓いなど出来るわけも無く、
ボクに霊から身を守る方法を教えてくれた修験者の家系の
Mさんという霊能力のある人を紹介することになりました。
Mさんは福岡市近郊のD市に在住されておられる
70代の男性の方で、以前はK市の中学校で教鞭を取っておられ、
その後C市の古社で神職もなさっていたのですが、
平成元年頃引退なさって現在はD市にある自宅で
恩給暮らしの隠居生活をなさっているので、

「都合良ければいつでも良い」
と快諾していただいたのですが、彼女は一応OLなもので
次の日曜日にお願いしました。
彼女はその間も毎日のように悪夢に悩まされ、
前々日の金曜日、通勤途中の満員電車の中で人波に揉まれたとき、

不意に長身の男性の片腕の肘の内側にが首にがっちりと嵌ってしまい、

その状態のまま身動き取れずに気を失いそうになったというのです。

幸い、日曜日に3人でD市のMさんのお宅に伺い、
彼に除霊してもらうと彼女に憑いていた女性は
嘘のように簡単に彼女から離れてしまい、
以来彼女は元気を取り戻したようです。


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