幽霊滝の伝説
いつの世からか知らぬが、ある寒い冬の晩、
黒坂村の朝取場に働いている女房や娘などが
大きないろりを囲んで怪談話に気味悪さを感じていたおりから、
その中の1人が「今夜これからたった一人で幽霊滝に行ってみたら」
と言いだした。
一座の皆は鳥肌を立てて、ぞっとしたおそろしさに震えて
顔を見合わせた。
そのうち一座の1人が
「もし行く人があれば今日取った麻を全部その人にあげる」と言った。
「私もあげる」すると「私も」「私も」と全員が言ったとき、
一座の中から安藤勝という大工の女房が立ち上がって
「皆さんが麻を私に下さるなら私が行く」と申し出た。
女衆はお勝の言葉に驚きと悔りの気持ちで
「そんならお勝さん幽霊滝へ行ってお賽銭箱を持ってきてつかえ、
それが証拠にならあね」と言った。
お勝は「賽銭箱を持ってきます」と叫んで、
眠っていた吾子を背に負い
麻取場を駆けて出ていった。
霧の深い夜である、星明りをたよりに
凍りついた道を無言で、険しい岩石や大杉の根をふみしめ、
道ならぬ道を登ると、いよいよ暗くなる。
今まで気づかなかった滝の音が耳をゆるがず轟然たる音に
気づくや手も足もがくがくと震え、身も心もしびれおののいて、
ただぼうぜんと我を忘れ、ふと見ると白じらと氏神の祠が見えた。
賽銭箱も見えた。
お勝はかけよって、ずいっと手をのばしたそのとき
「お勝っつあん」と滝の中から声がした。
お勝は恐ろしさに、ぞっとして立ちすくんだ。
「オイお勝さん」再度の声は警告と脅すような怒気を含んだ様である。
しかしお勝は気を取り直していっさんに駆け出した。
やがて麻取場に帰り、皆の前に賽銭箱を置いて幽霊滝の次第を話した。
一座の女房や娘等は気丈なお勝に同情の声を寄せて
「こりゃあ取った麻を丸取りされるだけの値打ちのある人だ」
と語り合った。
そしてお勝っつあん、背中の坊やが寒かろう、お腹もすいた時分、
かわいそうに」、さっと老母がおぶった子供の紐を解くのを
手伝ったそのとき「アッ背中に血が」と叫んだ。
「血だ」「血だ」一同が驚き、よく見ると子供の首がいつのまにか
取られていたのである。
参考文献 小泉八雲集「骨董」より
この伝説の幽霊滝は滝山公園にある滝、
龍王滝のことを指します。
滝のすぐそばには瀧山神社があります。
鳥居から石段を上がる事15分ほど。
苔でよくすべりました…瀧山神社に到達。
ここまで来ると轟音が聞こえてきます。
ご神木、とその背後に滝が見えます。
こちらが龍王滝。
幽霊滝です。
不気味な感じはなく…むしろ何か癒された感が。
滝のそばには祠が。
さらに祠が…。
滝山公園内にはお勝ヶ池がある。
お勝ヶ池
幽霊滝の伝説に登場する
黒坂の大工の女房お勝が、
背負った子供の首を
天狗にとられ悲しみの
涙でできたと言われている。
幽霊滝の伝説とは別に、滝山公園自体に
幽霊が出るという噂があるようです。
自殺があったとか。