ミイラ

ミイラ 怖い話
ミイラ

ミイラ

投稿者:かにっちさん


私は今は留学生をしていますが、二年程前まで
某県警の警察官をしておりました。
四、五年ほど前になりましょうか、その日も私は通常通り
朝から出勤し、その日の勤務配置を受けておりました。

A交番、○○巡査部長、▽▽巡査。
B交番、□□巡査部長、△△巡査、××巡査。
C交番、◇◇巡査長、かにっち巡査・・
パトカー1号、●●巡査長、◎◎巡査・・
パトカー2号は・・
係長の朝の教養を受ける前に、当直主任が
「かにっちくん、ちょっと・・」と私を手招きするのです。

彼は続けて、

「君の交番の管内で今、ミイラ死体が発見されたらしい。
このままだと君の交代前の人員が扱わなくちいけなくなるから、
とりあえずかにっちくん、引き継いでくれんか。場所はここだ」と言うのです。
ミイラ~?日本でミイラってのは珍しいな、と思いつつも
一緒に勤務する班長にその旨伝えました。

「班長、どうもうちの管内で○○地区でマル変だそうです。ミイラらしいです。」

「マル変~?あそこでか?・・・む、まさかじゅうでらのアイツじゃないだろうな」

ジューデラ?ジューデラってなんだ?

聞こうと思いましたが、昨日から勤務してる人と交代してあげなくちゃいけないし、

とにかく検分に必要な資材を抱えて、バイクで現場へ急ぎました。
ところで余談ですが、なぜ日本でミイラが珍しいのかと申しますと、
日本は温暖湿潤気候で年間を通じて湿度が高く、

しかもその時期は夏季であったため、余程の好条件が揃わないと腐乱してしまい、

ミイラにはならないのです。

現場は広大な畑が広がる私の署の管内でも特に田舎の地域で、

畑の真中にまるで饅頭のような円形の小高い丘が盛り上がっておりました。
よく見ると、そこへ通じる小道に見慣れた交番バイクそして刑事課、
鑑識課の車両が駐車しています。

現場はどうやらその小高い丘のようでした。

ここが班長の言ってたジューデラか?

「遅くなりました、交代します」

「おお、来たか、ご苦労さん。現場はあそこだから」

と先輩が指差すのは小高い丘の上。

夏場なので鬱蒼と丈の高い草が生い茂り、何があるのか見えません。

暑い最中にも、なにやら重苦しい雰囲気を感じます。

頂上か・・・、とりあえず現場を見ようとした私はそこに硬直してしまいました。

入り口に手作りらしき山門があり、そこに白ペンキで「獣寺」と書かれており、
山門一面には同じく白ペンキで「呪」という小さな文字が
一面びっしりかかれていたのです。

その横に、羊か山羊かはたまた牛なのか、角付きの獣の頭蓋骨を飾りにした、

ヒモに小さな骨を通して作られた数珠。

横の小さな棚には猫や犬や、他の小動物の頭蓋骨が陳列されています。

ジューデラって、けものでらって意味なのか~!
とあまりの異様な光景に驚きながら山門をくぐり、
昨日からの雨でぬかるんでいた細い上り道を上っていくと、
トタンで作られた小屋が数棟。
どうも動物小屋のようですが、動物はいません。

全滅したのか、はたまた逃げたのか。

登っていくにつれて強まる腐臭。

登りきったところに、それはありました。

動物小屋と同じトタンで作られた、しかしひときわ大きな小屋。

鑑識係の刑事さんもそこにいました。

「あ、◇◇班長・・お疲れ様です。ホトケさんはどこですか?」
「おっ、その小屋の中だよ・・・おい、下手に近づくな。
草が茂ってて覗かないと見えないし、
うっかりホトケさんを踏んづけちまったらえらいことだからな」

それでも小屋の中をちらと覗くと、小屋の中まで鬱蒼と草が茂っており、

その中になにやら黒っぽい塊が見えました。

これは迂闊に小屋の中に入れない、死体を損壊してしまうかも、
そう思った私はベテランの刑事さんが死体を運び出すのを待つことにし、
一旦麓に下りました。

トタン板に載せられたミイラが麓に下りてきたのは、それから10数分後だったでしょうか。

皆でその死体を覗き込んだとき、その異様さに絶句してしまいました。

その死体は、胡座をかいたままうつ伏せの状態でミイラ化していたのです。

「こっ、これは・・・」

「いくらなんでも、普通こんな格好で死ぬものか」

「いやしかし、修行中の突然死ということもありうるのでは?」
「ありうるかもしれんが、しかし胡座をかいたままか?
いくらなんでもちょっとくらい姿勢が変わるだろう」

皆でひとくさり話しましたが、私たちは専門家ではありません。

検死は検死医の先生に任せることにし、私は遅れて到着した相勤者の班長と一緒に、

第一発見者の事情聴取を行いました。

第一発見者は、その変死者の内縁の奥さんでした。
しかし不思議なことに、その奥さんは現場から
60キロ以上離れてる温泉旅館で働いてたのです。

発見現場は道路から数百メートル入った畑の真中で、地域住民ならいざ知らず、

数十キロも離れた県西部で働いてた奥さんが、偶然来るところではないのです。

しかももう数年も音沙汰がなく、その日は平日で、
いかに内縁の奥さんといっても仕事を休んでまで
来るようなところではありません。

その日は、その後すぐ私は別の任務が入ったのでそちらにいったのですが、

ひととおり発見時の状況を聴取した後、班長が奥さんに尋ねたそうです。

「しかし奥さん、なんだって今日に限ってこんなところまで来たんですか?

何年も音沙汰なかったんでしょう?」

誰でも疑問を持ちそうなその問いに、奥さんは

「ええ実は、数日前から仕事をしているとお父ちゃん(変死者)が耳元で

『母ちゃん、母ちゃん』と呼ぶ声が聞こえるんですよ。

それで気になったので尋ねてみたら、お父ちゃんが・・・」

亡くなったその人は、最低でも死後数ヶ月は経っていました。

修行中だった彼が、最後の力で彼女に自分の死に場所を伝えたのでしょうか。


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