マンション生活

怖い話

マンション生活

投稿者:沢中 陽さん

イワク付き不動産物件というのは、本当にかなり破格な
家賃設定がされていることがあります。
ボクが東京でADをしていた頃、同じAD仲間に
Sクンという体重100キロの巨漢がいました。
そのころ彼はまだ大学を卒業して2年くらいの時期で、
在学中からのアパートにまだ住んでいたので、
母校C大にほど近い京王線多摩動物公園駅から
毎日都心まで通っていました。
しかしあるとき、もっと通勤時間を減らしたいと考えて
都心部の賃貸アパートをあちこち探し回っていると、

新宿区D町に格安のマンションを見つけたのです。

しかも地下鉄丸の内線のY駅から徒歩5、6分という好立地。
3万円台くらいの安アパートを探していたのに同じくらいの
3万2千円くらいで1DK風呂トイレ付きの

マンションがあったのです。
ところが、このマンション、多少古いけれどどの部屋も
家賃6万円くらいするのにこの部屋だけ約半額で、

しかも前の住人が転居して以来3ヶ月以上も空き部屋だったのです。

普段鈍感なSクンも、もしやと思い、

「もしかして、出ます?」

と尋ねると、

「実は、出ます」

と案外あっさりと白状したそうです。

それでも、彼は心霊現象を信じないわけではないのですが経験したことが無く、

恐怖心よりも安さと好奇心の方が強かったから、幽霊が出ると聞いて

なおさら住んでみたくなって借りたのだと言っていました。

彼の引越しに、仲の良いボクと、ボクより数ヶ月だけ先輩のF君が手伝いに行きました。
レンタカーの2tトラックを借りて荷を運搬し、Y駅近くのマンションへ到着しました。

これで3万2千円というのが信じられないくらい良い部屋でした。

1DKとはいっても、その一部屋が10畳くらいあるのです。
トイレと風呂もユニットではなく別々になっていて、
ぺーぺーのADが住むには勿体無いような部屋でした。
荷物を運び込み、夜になったので大通りまで
夕食を食べに出かけ、店を出てから、

「それじゃあ、オレ帰るわ」

とF君が言うのでじゃあボクも帰ろうかなと思っていると、

「えー?これから部屋帰って引越し祝いしようかなぁと思ってたのに…ほら、

そこに酒売ってるみたいだからビール買って帰ろうぜ」

と半ば無理矢理につれて帰られました。
仕方なく彼に付き合って、二人ともその夜は一晩付き合うことになり、
ボクらも手伝ってある程度の部屋の整理と、

テレビやビデオ、電話など繋いだのちに、3人で酒を飲み始めました。

ボクは酒が弱く、少しずつ飲むので、酔ってしまうことなど殆ど無いのですが、

深夜12時を過ぎると二人とも酔い潰れて眠ってしまいました。
暫くは一人残されてテレビを観ていたのですが、
1時頃になってからそろそろボクも寝るか…と思い、
押入れから勝手に毛布を出して絨毯の上に横になり、
電気を消して寝ようとしました。

真っ暗な部屋で毛布に包まり、両目蓋閉じて眠ろうとしたとき、
カタカタッ…と音がしました。そして、息を潜めて、
閉じた引き戸の向こう側、キッチンの方を意識していると、

明らかに何者かの気配を感じました。

イワク付きと言っていたから、「やっぱりな…」と思い、毛布から出て、
真っ暗闇の中引き戸を少し開けて隙間からのぞいてみましたが、
誰も居ません。
戸を開け、電気を点けぬまま、
足音を忍ばせてキッチンをゆっくり一回りしていると、
ドアの向こうから気配がしたのです。

そのドアは浴室の入り口でした。
ココだな…ドアを静かに開けて中を見ると、浴槽の中に全裸の男が、
湯に浸かっているような姿勢で入っていて、

手首からどす黒い血の太い筋が排水口まで続いていました。

手探りで風呂場の電気スイッチに指を掛け、
電灯を点けると男の姿はスーッと消えてしまいました。
どうやらこの部屋で自殺した男が、まだこの部屋に住み着いているようでした。
ボクは部屋に戻りましたが、S君は大イビキをかいて爆睡していたので、
コイツなら大丈夫だろうと思い、

編に怖がらせてもかわいそうだという考えから何も話さないことにしました。

しかしそれから、Sは会う度に

「やぱり何かいるみたいなカンジがするけど、何にも見えないし…」とか、

「変な音がするんだ」

「なんか男の声が聞こえてきたんだけど誰もいないし…」

というので、ある日、

「お前には言わなかったけど、居たよ。30歳くらいの手首切って自殺した男」

そういうと、心当たりがあると言って、
風呂に入ってヒゲ剃ろうと髭剃り手にすると
なんか無性に髭剃りの刃をじっと見つめてしまって、

更ににずーっと見ていると、刃先が真っ赤に染まったように見えてくるのだそうです。
そして気が付くと、剃刀ではなく髭剃りなのに
手首に当てようとしていたことがあったと言ったのです。

この話にはまだ続きがあるので、また投稿します。


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